【シュペーア伯爵】物語の舞台となったシュペーア伯爵(Graf Spee)は、プロイセン・ドイツのシュペー伯爵(第一次世界大戦時のドイツ海軍大将 Maximilian Johannes Maria Hubert von Spee)。ちなみにベルリンにはシュペー伯通り(グラフ・シュペー・シュトラーセ)という通りがあり、その後改名されて「ヒロシマ・シュトラーセ」と呼ばれているという記事が2000年8月23日の朝日新聞に出ていた。シュペー伯爵については、本によってはシュペーア伯爵と呼んでいるものもあり、ネーミングとしてはシュペーアの方を使っている。シュペーア一家で当主フェルディナンド(Ferdinand)や、孫のアレクシス(Alexis)などはありふれたゲルマン系ネーミングだが、フェルディナンドの長男であるアーヤクスは英語由来である(Ajaks⇒英語ならAjacksでエィジャックス。英国の軍艦(巡洋艦)の名前であり、第二次世界大戦で独戦艦『グラフ・シュペー』と戦っている)。 【ノイエシュタウフェンベルク子爵】クラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク(Claus Schenk von Stauffenberg)伯爵大佐は、第二次世界大戦末期のヒトラー暗殺未遂事件の実行犯(実際にヒトラーの足下に爆弾を置いた人)である。この人物の名前を知ったのは、『天皇の密使(高木彬光)』。今、手許にないので確認できないが、『ドイツ参謀本部興亡史(W.ゲルリッツ)』で、その名が間違いでないと確認できたと記憶している。ヒトラー暗殺未遂事件実行犯で、典型的なプロイセン・ドイツ参謀本部将校というプロフィルがモーリッツ(Moriz von Spee und Neuestauffenberg)に相応しく感じられ、名前を頂いた。【“シュピーゲル”】“シュピーゲル”クルツバッハ(Robert "Spiegel" Kurzbach)が名乗っていたフランツ・ハルダー(Franz Halder)は、第二次世界大戦開始時点でのドイツ陸軍参謀総長の名前そのまま。「ドイツ軍が軍隊として機能していたのは、ヒトラーによってハルダーが参謀長を罷免されるまでだった」と『ドイツ参謀本部(渡部昇一)』に書かれるように、モルトケの最後の後継者。ハルダーの悲劇性とは全くことなるキャラクターだが、名前の持つ重さは“シュピーゲル”が名乗るに相応しい。クルツバッハ自体の名前の由来は残念ながら定かでない。やはりプロイセン・ドイツの軍人にザイドリッツ・クルツバッハという人物がいるようで、おそらくこの名前を『ドイツ参謀本部興亡史(W.ゲルリッツ)』から拾い出したのだろうと思う。【賢明なフクロウのシュパイデル大佐】賢明なフクロウのシュパイデル(Alfred Heinz von Speidel)大佐は、かの“砂漠の狐”ロンメル将軍(Erwin Rommel)の最後の参謀長(Hans Speidel)。風貌その他の描写は『参謀』(児玉襄)からそのまま頂いた。埃で真っ白になった上に、ヒビだらけになった眼鏡をかけて平然としているというなかなかお茶目な面も見せてくれた。【フレーデグンデ・ロゼマリーエ・フローレンツ・フォン・テーオバルト】悪趣味な洒落の塊は、フレーデグンデ・ロゼマリーエ・フローレンツ・フォン・テーオバルト(Fredegunde Rosemarie Florenz von Theobalt)。フレーデグンデ(Fredegunde)はゲルマン神話におけるブリュンヒルト(Brunhild )のライバルであり、この名を敢えて名乗った時点でテーオバルトはラインハルトに敵対する意思を公然と表明しているとさえ言える(が、誰も気にしなかったようだが)。彼女が唯一変えなかった“ロゼマリーエ(Rosemarie)”は英語の“ローズマリー”の独語読み。言わずと知れた“ローズマリーの赤ちゃん”が由来という、あまり趣味の良くないネーミングである。“薔薇のマリー『砂漠の薔薇(新谷かおる)』”からと言えば全然印象も変わろうと言うものだが、それではいささか以上に彼女の印象からはずれてしまう。フローレンツ(Florenz)には特に意味はない。テーオバルト(Theobalt)を英語読みすると“シーボルト”で、そのつもりだったのだが、日本の幕末史で有名なシーボルト(Philipp Franz von Siebold)とは、実はスペリングが違うということを最近知った(不勉強!)。ということで、テーオバルトのネーミングはずいぶん手間をかけた。その本名(Matilde Rosemarie Agnetha von Benemunde)もまた妙に長いが、こちらはすっかり適当に、その辺で目についたドイツ名を適当につなぎ合わせ、本名であるロゼマリーエを放り込んだだけである。本名より、テーオバルトの名前の方に思い入れは深い。【凶相の海賊マルツウェル】旧貴族連合軍の戦闘指揮官にして凶相の海賊マルツウェル(Cortony George Marzwell)は二人のアメリカ軍人の名前の合成。ジョージ・マーシャル(George Marshall 『参謀(児玉襄)』より)とコートニー・ホイットニー(Cortony Whitney 『東京裁判(児玉襄)』より)。マルツウェルはマーシャルに最も近い独系の苗字を拾ってきたもので、あとは両軍人の名前の独語読み替えに過ぎない。特に、これらの軍人の事跡とマルツウェルの為人との間につながりはない。“シュピーゲル”と異なり、マルツウェルへの扱いの軽さがそのままネーミングにも反映されたと言うべきではないかと思っている。【ファンデルデルト子爵】ファンデルフェルト(Van der Velt)子爵は、もともとは拙書『大戦史』に登場する巨大企業複合体の開祖とも言うべき人物の名前をそのまま流用した。果たして、本当にドイツ人の名前としてファンデルフェルトが実在するかどうかまでは、実は確認していない(汗)が、ヴァンダーヴィルト(ヴァンダービルトだったかも知れない)のドイツ語読みである。ヴァンダーヴィルトは、今は思い出せないのだが、ヨーロッパの著名な大富豪であり企業複合体のオーナーの名前だったと思う。故に執筆中は時々混乱を起こして、うっかりヴァンデルフェルトと書いてしまった箇所も十数カ所に上った。【OAV出身のキャラクターたち】主なところはこの辺までで、後の主要人物のほとんどは銀英伝本編とOAVからもらってきた。脇役ではOAV出身(?)者が特に多い。二次創作を試みる者にとっては、OAVは未発掘の金鉱のようなものかも知れない。フェルデベルト少将も同じくOAV出身である。原作本編では名前がなく、キルヒアイスが亡くなった後、シュトライトが現れるまでに副官が何人か交代したとだけあるが、OAVではしっかりと名前を貰っていた。この他、ナイセバッハ(グリルパルツァーの分艦隊司令官)、ヴィーゼンヒュッター(ミュラー艦隊副司令官)、ヴェーラー(クナップシュタインの参謀長)、シュライヤー(グリルパルツァーの参謀長)などもすべてOAV出身者と言ってよい。ところがうまい話は裏があると言うもので、見事に背負い投げを食らった例もある。いい例が、ヴィンクラー中将である。ヴィンクラー中将は、9巻でのガンダルヴァ基地司令官であり、麻薬(サイオキシン?)中毒となって行方不明になる人物である。ファースト・ネームなどないものと思いこんで、上巻ではエルヴィン・ヴィンクラーと呼んでいたところが、よく調べてみるとOAVでアロイス・アルフレート・フォン・ヴィンクラー(Alois Alfred von Winkler)なる名前をもらっていることが分かり冷や汗をかいた(というより今更上巻の修正もできないので下巻のみ修正)。 |
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