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七. 銀河錬金術師伝説


振り向いた眼光の凄まじさは、先ほどの比ではなかった。
ブルク中佐は、口許から音程のはずれた笛の音色のような悲鳴を漏らし、凍り付いた焔のような視線に咽喉の奥へ突き戻された息を呑み込んだまま立ち竦んだ。視線を外そうとして外せず、そのまま金縛られたように凝固する。
そのままラインハルトがあと数秒も視線を固定していれば、ブルク中佐はそのまま気死に追い込まれたかも知れなかった。
「中佐、どうした?」
驚いたようにグロルマン准将が腰を浮かせたことが、ブルクの生命を救った。
自然な動作でラインハルトが視線を外し、准将に敬礼をする。猛々しいまでの獅子の凝視から解放され、ブルクの咽喉からもう一度、笛の音に似た呼吸音が漏れた。金縛りが解け、危うくフロアにしりもちをつきそうによろめくのに、最早一顧だに与えず、ラインハルトは何事もなかったように執務室を退出した。

ラインハルト『まあ、きょうはこの辺で許したる……』

キルヒアイス『無下に下僚に対して恐怖をもって臨むのは、ラインハルト様が目指されるものとはかけ離れた行為ではありませんか。ブルク中佐にも彼なりの事情があった……とお考えにはなれなかったのですか』

ラインハルト『事情? 奴にどんな事情があったと言うんだ? 奴は、奴自身の言動によって、自らの無能さを証明してのけたんだぞ』

キルヒアイス『雨の日なのに、有能な副官が付いていてくれなかった……とか?』

ラインハルト『……』


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