ちょっと早めにキャンパスへ出た日には興味半分で学食<メンザ>の昼食を食べたこともあった。学食<メンザ>はヨハンナのいるカフェテリアと並んでいて…と言うか、学食の一部が仕切られてカフェテリアになってるのに、あとで気がついた。昼になると大学生たちで一杯だった。 「こう言うところでお食事をなさるのは、どうも……」 ハンスは顔をしかめたけれど、わたしだっていずれ大学に入る。今の学校から無試験であがれる学院付属の大学ではなくて、帝立大学かオーディン文理科大学へ行ってみたい。その時は、きっとこうやってほかの学生たちと一緒に学食のテーブルを囲むに決まっている。それなら、早い内になれておきたかったし、第一、大学生たちが何を食べているのか……それにも興味があった。 「え―――?」 テーブルの上に大皿。その上に山盛りの……これは? 「これはクローシュですな」 ハンスが教えてくれた。ジャガイモのマッシュと小麦粉を混ぜて蒸したお団子というか、蒸しパン。ただ、どうしてテーブルに一皿ずつしかおいていないのかが分からない。確かに一人前にしてはすごい大皿だし、そこからこぼれ落ちそうなほど盛り上げてあるんだけれど。 わたしたちが戸惑っているのに気がついたらしい。同じテーブルに付いていた学生らしい男の人が笑い出した。 「あるだけ取って食べればいいんだよ、おじさん」 「あるだけ?」 「ああ、あるだけ。迷ってる暇はないと思うけど―――」 「え―――?」 見てる間に、大皿の上のクローシュが減っていく。やっとのことでわたしが一つ手に取ったら、もうお皿の上は空っぽ。これじゃ、ハンスが食べる分もないじゃない? 「おーい!!」 とたんに学生の一人が大声を上げた。 「え。なに?」 「クローシュ、おかわりーっ!!」 「ヤーボール!!」 大声とともにどたどたどたっという足音。そして、ドスンっと置かれた大皿の上には再び山盛りのクローシュ。待ってましたとばかりに四方八方から手が伸びる。 「―――こういうこと」 ああ、びっくりした。一体、何が飛んできたのかと思ってのどが詰まっちゃった。 「ふむ、これは、なかなか美味しうございますよ」 ハンスったらさっさとクローシュをとって頬張ってるんだもの。 しようがないから、わたしもクローシュを口に運んだけれど、ちょっとぱさぱさしてて食べにくい。 「ソーセージのスープに浸すといい」 さっきの大学生がまた教えてくれた。まわりはほとんど大学生ばかり。その中で、わたしはどうしても浮いて見えるし、そばには『お付きです』と名札をつけてるようなハンスが一緒だから、目立たない方がおかしいんだけれど。 昼食のメニューは、クローシュのほかは豚肉と脂のソーセージを暖めたのと、オレンジジュース。それにコーヒー。ソーセージの脂が溶けていて、それがスープみたいになっているのにクローシュを浸して食べるんだって。 「あ、美味しい」 家のダイニング・ルームで食べるのや、レストランの食事とは比べものにならないけれど、とにかく、美味しい、という気がした―――というか、帝国のほとんどの人はこういうものを食べていて、ひょっとして、こういうものさえ食べられない……のかも知れない。 気が付いたら、ソーセージは全部、クローシュは三つも食べてしまった。 それ以来、二回に一回は学食<メンザ>で昼食を摂るようになったせいかも知れない―――『お嬢様はすっかりお好みがお変わりになってしまって……』とシェフを嘆かせることになってしまった。 今も、わざわざ取り寄せて貰ったサクランボのジャム<ザウワーキルシュ>をライ麦パンに塗って食べるのが、このごろのわたしのお好みの朝食になってしまっている。 |