直径六〇キロの球形の宇宙要塞は、最大二万隻の艦隊を収容可能な宇宙港施設を持つとされている。まず、その表面積を計算すると約一万一三〇〇平方キロであり、これはほぼ秋田県の広さに匹敵する。さて、秋田県に、宇宙戦艦をそのまま着地させるとして、例えば、全長一・二キロの『ブリュンヒルト』……全長と幅の比を一対八くらいにするとして、最大幅は余裕を持って一五〇メートル。左右前後に余裕を持つとして、着陸に要するスペースを左右〇・五キロ、前後一・五キロとすれは〇・七五平方キロ。一万一三〇〇平方キロには一万五〇〇〇隻が着陸可能である。無論、宇宙艦隊は戦艦だけでなく、それよりもサイズの小さい艦艇が多く含まれるわけだから、イゼルローン要塞の表面をびっしりと使えば、二万隻の着陸は不可能ではない。 とは言え、防禦のことや対空砲や雷神の槌などの武装を考えると、要塞表面にそのままびっしりと艦艇を着地させるわけには行かない。『坂の上の雲』で司馬遼太郎氏が書いているように、要塞とは『艦隊と、その母港を抱きかかえ守るためにある』ものなので、その表面に艦隊をびっしりと停泊させて、敵からの砲撃に無防備にさらけ出していたのでは要塞の意味がないというものである。ゆえに当然、艦艇は要塞内部に収容されると考えるべきだろう。イゼルローン要塞の容積の相当部分が宇宙艦隊のための宇宙港に充てられていたと考えても良いのではないかと思う。 さて、イゼルローン要塞は直径六〇キロメートル。その容積は概ね一一万三〇〇〇立方キロメートル。水をびっしりと湛えれば、実に一一三兆トンに達する(この数字からも、ガイエスブルグの質量約四〇兆トンという数字は妥当性を持つと思える)。さて、この直径六〇キロメートルの球体、半径三〇キロの内、上層より一〇キロが軍事区画であったと考えてみる。この間の容積は、約八万立方キロに達する。一方、『ブリュンヒルト』級戦艦一隻(全長一・二キロ)を収容する容積として、〇・五キロ四方×長さ二キロのドックを考えてみる。約〇・五立方キロである。単純計算すると、一六万隻分のスペースがあることになる。が、イゼルローン要塞の表面から地下一〇キロすべて宇宙港というのはあり得ない仮定である。仮に、その体積の三分の一が宇宙港であり、無論、その表面にも兵装がなされていたと考え、他の三分の二は要塞主砲などの更に強力な武装と、多層式の装甲、工廠、ドック、司令所、艦載機格納庫などの軍事施設であると仮定すると、宇宙港に充てられるべき容積は、約二万七〇〇〇立方キロとなる。単純計算で、五万四〇〇〇隻分に達する。 無論、艦艇の出入りのための空間を考えるなら、これだけの容積をすべて艦艇繋留の為のスペースに充当できるわけではない。一方、収容される艦艇全てが『ブリュンヒルト』級戦艦であるはずはない(つまり、一隻あたりの収容体積はもっと小さくても良い)一方、艦艇が出入りする空間も必要なことを考えれば、二万隻の収容能力があると仮定しても無理がないことになる。勿論、これだけの艦隊を一つの空間で収容し、一つの出入り口で出入りさせるとすれば、運用上で非常な無理を生じる。三万立方キロ……イゼルローン要塞全体の二五パーセント以上を占める宇宙港は、一つではなく複数の空間と出入り口から構成されていたと考えた方が無理は少ない。 この際、入港・出港に際しては衝突事故を避けるために各艦の推進装置の使用は禁止されて、牽引装置やタグ・ボート、あるいは『慣性駆動装置(出典は銀河乞食軍団)』などの使用が義務づけられていた。当然、戦艦、重巡航艦などの大型艦の出港には時間が取られ、中小艦艇は身軽く宇宙港を飛び出して行けた……などのSF的ギミックを想定して楽しむこともできそうだ。あるいは、宇宙港は二段に分かれていて、上層二キロくらいが常時出動準備完了の艦隊が待機しており、その下層八キロくらいが整備ドックだったと仮定してもよいように思える。 こう考えてみると、OAVの流体金属装甲の方が色々便利であることが分かる。こうした宇宙港が、一個の巨大な出入り口だけを持つわけはなく、当然数十の出入り口を持つだろうと思われる。そうした場合、出入り口が敵に対して露出していれば、これを一つ一つつぶしていくという作戦も取れることになるからだ。要塞表面が流体金属装甲に覆われていれば、そうした出入り口も隠蔽され、攻撃側の困難は更に増すことになる。要塞本体を厚さ数百メートルの流体金属装甲で覆い、その中を各種砲台(雷神の槌も含む)を浮遊砲台として装備することができれば、宇宙港出入り口の上層部分も砲台の死角部分としなくて済む。ただ、本編では流体金属装甲は採用しておらず、小説の原作そのままの金属装甲として描いているが…… |